「給与計算をアウトソーシングしたいが、社内稟議が通るかが気がかり」という方は少なくないことでしょう。アウトソーシングとなると既存の運用方法が変わるため、確かな根拠と、自社に合った選択が欠かせません。
そこで本記事では、給与計算業務に携わる100社以上の担当者へのヒアリング結果と、人事・労務を取り巻く近年の状況をもとに「ほとんどの企業にとって給与計算業務はアウトソーシングしたほうが合理的」であることと、その理由、さらに依頼先の選び方についてご紹介します。
また本記事の続編として、給与計算代行サービスの種類や内容、具体的なサービスを比較検討できるコンテンツも用意しています。併せてご覧ください。
給与計算の社内処理が抱える6つの課題
給与計算のアウトソーシングは、業務プロセスの一部を専門業者に委託して効率化を図るBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の一種で、近年利用が拡大しつつあります。もっとも相当数の企業は、現在も給与計算業務の社内処理を続けています(参考)。
そうした中、給与計算代行サービス『RoboRoboペイロール』を提供するオープンアソシエイツ株式会社は、企業で実際に給与計算に関わる100社以上の担当者様にヒアリングを重ねてきました。そこで得られた結論は、「ほとんど全ての企業にとって給与計算業務は、社内処理よりもアウトソーシングしたほうが得られるメリットが大きい」というものです。
では、なぜ給与計算はアウトソーシングしたほうがよいのでしょうか、まず挙げられるのは、給与計算の社内処理が抱えている6つの課題、すなわち
2. 多大な工数がかかる
3. 一時期に作業負担が集中する
4. 給与計算ソフトは万能でない
5. 一部を外注すると、かえって非効率化する
6. 将来の事業成長・業務継続にリスクが残る
という各点です。順を追ってみていきましょう。
課題1:属人化しやすい
給与計算は、各自の支給額など機密性の高い情報を扱うほか、専門的な知識も求められるため、社内で担当できる人がどうしても限られます。そのため、社長や親族、総務専門のベテラン社員などが長年唯一の担当となっていることが多く、「代わりがいない」「その人がいなければ進まない」状況になりがちです(=属人化)。
課題2:多大な工数がかかる
勤怠を集計し、手当や税金、社会保険料などを反映して支給額を算出する給与計算業務は、無料で出回るExcelシートなどを使っても、最低限の処理は可能です。
こうした一見手軽な印象の半面、実際の給与計算は想像以上に難しく、また意外なほどに工数(時間)がかかる業務です。その理由としては、毎月必ず締め切りがある上、多数の事項を漏れなく確認しなければならず、従業員の生活に直結するため遅れやミスが許されないこと、さらにほぼ毎年何らかの法改正対応が生じることなどが挙げられます。
具体的なモデルを示すと、例えば従業員50人規模の企業の給与計算業務では、人事・総務の1人担当者が、勤怠の打刻漏れチェックや修正を含めると「月労働時間のおよそ3割」を充てている場合もあります。
課題3:一時期に作業負担が集中する
給与計算業務では、勤怠の締め日から給料日前までの期間や年末調整シーズンなど、一時期に業務が集中します。そのため担当者が残業したり、周囲に業務のしわ寄せが生じたりしがちです。
課題4:給与計算ソフトは万能でない
給与計算の社内処理を効率化する目的で、市販の給与計算ソフトなどを導入している企業もみられます。確かに、これらを使えば一定の効率化は見込めますが、それだけで全ては解決しません。
自社のルール(就業規則など)や国のルール(労働基準法など)に沿って、給与を正しく計算するためには、相応の知識が求められます。特に、雇用形態(正社員・パート・嘱託など)が複数ある会社や、例外的な勤務体系(シフト制、フレックスタイム制、裁量労働制など)を採る会社では、計算が複雑化してミスが発生しやすくなります。実際に、「会社の上場準備にあたって過去の給与計算のチェックを受けたところ、多額の未払い賃金が発覚した」といった例が後を絶ちません。
こうした事態は ルール通りに自動計算できる給与計算ソフトを使えば避けられそうに思えるものの、社内の担当者が機能をすぐ理解し、正しく設定した上で、十分使いこなせるとは限らないのが実情です。間違いなく計算できるようになるまで、設定ミスなどの原因究明や再計算が必要なのはもちろん、中には「ソフト側が複雑な計算方法に対応しておらず、別途Excelで算出し手入力している」といった例もあり、ソフトの導入を機に担当者の作業負担が増すことさえ考えられます。
課題5:一部を外注すると、かえって非効率化する
「社内担当者がソフトで出した結果に不安が残る」として、給与計算後の再チェックを外部に依頼している企業もあります。しかし、このような「一部のみ外注」する方法は合計費用がかさみ、従業員1人あたりの給与計算に月3,000円以上を投じることにもなりかねません。品質を保ちながらコストを抑えるには、そもそも給与計算を社内処理していること自体を見直す必要があります。
課題6:将来の事業成長・業務継続にリスクが残る
過半数の企業が正社員の人手不足に悩んでいる(※1)現在、あらゆる企業の人事担当者は、採用難の時代においても事業を成長させるための対策を求められています。しかし、毎月の給与計算に追われていては、有効な手立てが遅れる可能性があります。
採用難は今後も続くとみられるため、給与計算業務の運用を見直さないうちに現担当者が定年、出産・育児、介護などで業務を離れると「他に分かる人がいないのに後任採用のめども立たない」状況に陥り、最悪の場合は業務が滞るおそれもあります。
※1・・・出典:株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年10月)」
給与計算のアウトソーシングで得られる5つのメリット
ここまで見てきたとおり、給与計算の社内処理を続けることには、多くの問題やリスクがあります。それと同時に、給与計算を積極的にアウトソーシングすることで得られるメリットも存在し、具体的には次の5つが挙げられます。
メリット1:業務との相性がよく、高い成果が期待できる
一般に、給与計算はアウトソーシングとの相性がよく、高い成果が期待できる業務です。これは、労務・税務に関する一定の専門知識が求められることや、せっかくそうした知識があっても社内では直接利益に貢献しないノンコア業務にあたる場合が多いこと、いっぽう受託する事業者にとってはビジネスの根幹となる業務であるため、豊富な経験・知見を持つプロフェッショナルが集まりやすいことが理由です。
メリット2:社内リソースを有効活用できる
定期的に生じる給与計算業務のアウトソーシングは、社内のリソースを最大限活用することにもつながります。具体的には、業務の繁忙期に人事部門内外へのしわ寄せが生じなくなるほか、採用強化・従業員エンゲージメント向上といった「攻めの人事」に集中できるようになります。
労働人口減少が続く中、人的資本経営(人材を一種の「資本」ととらえ、その価値を最大限引き出すこと)の観点から、攻めの人事が今後いっそう重要となるのは間違いありません。自社が優秀な人材に選ばれ続けるためにも、給与計算業務を手放した人事部門が重要なミッションに専念できるメリットは大きいといえるでしょう。
メリット3:属人化による業務の停滞リスクを解消できる
社内で適任者を見つけるのが困難な給与計算を、あらかじめ信頼できる外部事業者に委ねておくことで、「もし現担当がいなくなると、途端に業務が回らなくなる」という属人化した状態を解消し、業務や事業に対する将来のリスクを軽減できます。
メリット4:大幅な業務効率化が達成できる
社内処理では難しい水準の業務効率化を達成できるのも、給与計算アウトソーシングのメリットです。
給与計算業務には「繰り返しの単純作業」と「専門知識を要する確認ポイント」が混在しているため、効率化にあたっては一連の工程をすべて再検証するのが理想的といえます。しかし、こうした機会を通常業務の中で設けるのは難しく、関係する従業員も「自身の担当業務が楽になる」などのメリットがない限り、取り組む動機に乏しいのが実情です。
この点で、給与計算業務をアウトソーシングする際には、
・単純作業の自動化(勤怠管理ツールによるデータ集約など)
・専門家に委ねる計算や確認工程の切り出し
を行うことから、工程全体の見直しと再構築が必然的に伴うこととなります。これにより、大幅な業務効率化が見込めるのです。
メリット5:トータルコストで優位性がある
社内処理にかけていた人件費などを含むトータルでみると、給与計算のアウトソーシングはコスト面でも優位性があります。適切な依頼先を選ぶとともに、社内業務を整理してムダを省けば、アウトソーシングによる費用発生を上回るコスト削減が十分に可能です。
おすすめの給与計算業務の依頼先
給与計算業務を社外に任せるとして、ではどこに頼むのがよいでしょうか。
結論としては、おおむね従業員50人未満の企業では「既に付き合いのある税理士や社労士(社会保険労務士)への依頼」がベストです。
社労士への委託が難しい場合や、従業員50人以上の企業は「給与計算代行サービス」を利用するのがよいでしょう。
従業員50人以上 | 給与計算代行サービスを利用 |
従業員50人未満 | 税理士・社労士に相談 |
給与計算代行サービスを利用する
従業員がおおむね50人以上の企業、あるいは50人未満でも依頼できる税理士・社労士に心当たりがない場合は、大量の事務処理に対応できる仕組みを備えた給与計算代行サービスを利用するのがよいでしょう。
小規模事業者の給与計算で多くみられる、税理士・社労士に依頼する方法は、税務処理や労務相談といった他業務と一体で任せられる便利さの一方、個人経営の税理士・社労士事務所などでは、従業員数十人規模以上の給与計算代行を積極的に受任しない例も珍しくないようです。このことは、大量・煩雑な給与計算の事務処理に関しては、相応の組織や仕組みを備えた事業者が適していることを裏付けているといえるでしょう。
税理士・社労士に相談する
現在、法人税の申告では全体の約9割(89.5%)に税理士が関与している(※2)ほか、給与計算に関連する年末調整の代行は法律上、税理士しか行えないことになっています。
※2・・・出典:財務省「令和3事業年度 国税庁実績報告書」
また、企業が常時10人以上の労働者を使用する規模になると、就業規則の作成義務(労働基準法89条)が生じることから、人事労務の専門家である社労士への依頼が増える傾向にあります。
そこで、開業当初や従業員数人規模の企業は税理士に、従業員10人以上の場合は社労士にも、給与計算業務を外注できないか相談してみるのがよいでしょう。すでに顧問契約などを結んでいる場合、割安に依頼できるケースもあるようです。
まとめ
社内リソースの有効活用や、社内処理で生じる属人化のリスクなどを考えると、現在ほとんど全ての企業にとって、給与計算業務は社外へのアウトソーシングが合理的といえます。依頼先としては、「税理士・社労士事務所」と「給与計算代行サービス」に大別できますが、他業務との兼ね合いや事務処理能力などから、おおむね従業員50人未満の企業では前者が、それ以上では後者が適しています。
アウトソーシングを機に、一連の業務全体を最適な形に見直せば、給与計算のスピード・コスト・正確性を、そろって改善することも十分期待できるでしょう。
ここまで、給与計算業務の社内処理で生じる問題や、社外に任せるべき理由、依頼先の選び方について解説しました。
本記事の続編として、給与計算代行サービスの種類や内容、具体的なサービスを比較検討できるコンテンツも用意していますので、併せて参考にしてみてください。